国連の「表現の自由特別報告者」
デイビッド・ケイ(David Kaye)が
平成28年4月に来日しました。
 注:正式には意見及び表現の自由に対する
   権利の促進と保護に関する特別報告者   
   国連の特別報告者とは特定の国の人権状況や
   テ-マ別の人権状況について事実調査・監視を行う。   
   国連人権委員会が任命する。   
   いかなる政府、組織からも
   独立した資格で調査に当る。
   金銭的報酬はないとされる。   
   デイビッド・ケイ氏は国連人権委員会から
   任命された独立専門家で2014年に就任、米国出身。   
   国際人権法や国際人道法の専門家。
デイビッド・ケイ氏は2015年12月に来日予定でしたが、
日本政府側の非協力の為に延期されていました。
そしていよいよ、デイビッド・ケイの報告書です。
2016年4月14日発表され、
正式な報告書は2017年に国連人権委員会に提出されます。
 
 
デイビッド・ケイの国連人権委員会への報告書は、
暫定報告書が2016年に、
正式な報告書が2017年に出されました。
そして2019年6月に、
2017年の我国への勧告に対して、
日本政府がどのような対処をしたのかの報告が出されました。
結果は日本は何の対処もしていないのですが、少し詳しく書きます。
 
「デイビッド・ケイの暫定報告書」
まずデイビッド・ケイの
2016年4月14日に発表された暫定報告書です。
●  デイビッド・ケイ特別報告者の暫定報告
 ◎メディアの独立
  放送法3条は、放送メディアの独立を強調している。
  だが、私の会ったジャ-ナリストの多くは、
  政府の強い圧力を感じていた。
  政治的に公平であることなど、
  放送法4条の原則は適正なものだ。
  しかし、何が公平であるかについて、
  いかなる政府も判断するべきではないと信じる。
  政府の考え方は、対照的だ。
  総務相は、放送法4条違反と判断すれば、
  放送業務の停止を命じる可能性もあると述べた。
  政府は脅かしではないと言うが、
  メディア規制の脅しと受け止められている。
  ほかにも自民党は2014年11月、
  選挙中の中立、公平な報道を求める文書を放送局に送った。
  15年2月には菅義偉官房長官がオフレコ会合で、
  あるテレビ局は放送法に反していると繰り返し批判した。
  政府は放送法4条を廃止し、
  メディア規制の業務から手を引くことを勧める。
  日本の記者が、独立した職業的な組織を
  持っていれば政府の影響力に
  抵抗できるが、そうはならない。
  「記者クラブ」と呼ばれるシステムは、
  アクセスと排他性を重んじる。
  規制側の政府と、規制されるメディア幹部が
  会食し、密接な関係を築いている。
  こうした懸念に加え、見落とされがちなのが、
  (表現の自由を保障する)憲法21条について、
  自民党が「公益及び公の秩序を
  害することを目的とした活動を行い、
  並びにそれを目的として結社をすることは、
  認められない」との憲法改正草案を出していること。
  これは国連の
  「市民的及び政治的権力に関する国際規約」19条に矛盾し、
  表現の自由への不安を示唆する。
  メディアの人たちは、
  これが自分たちに向けられているものと思っている。
 ◎歴史教育と報道の妨害   
  慰安婦をめぐる最初の問題は、
  元慰安婦にインタビュ-した
  最初の記者の一人、植村隆氏への嫌がらせだ。
  勤め先の大学は、植村氏を退職させるよう求める
  圧力に直面し、
  植村氏の娘に対し命の危険をにおわすような
  脅迫が加えられた。
  中学校の必修科目である日本史の教科書から、
  慰安婦の記載が削除されつつあると聞いた。
  第二次世界大戦中の犯罪をどう扱うかに
  政府が干渉するのは、民衆の知る権利を侵害する。
  政府は、歴史的な出来事の解釈に
  介入することを慎むだけではなく、
  こうした深刻な犯罪を市民に伝える
  努力を怠るべきではない。
 ◎特定秘密保護法   
  すべての政府は、国家の安全保障にとって
  致命的な情報を守りつつ、
  情報にアクセスする権利を保障する
  仕組みを提供しなくてはならない。
  しかし、特定秘密保護法は、必要以上に情報を隠し、
  原子力や安全保障、災害への備えなど、
  市民の関心が高い分野についての
  知る権利を危険にさらす。
  懸念として、まず、秘密の指定基準に
  非常にあいまいな部分が残っている。
  次に、記者と情報源が罰則を受ける恐れがある。
  記者を処分しないことを
  明文化すべきで、法改正を提案する。
  内部告発者の保護が弱いようにも映る。
  最後に、秘密の指定が適切だったのかを
  判断する情報へのアクセスが保障されていない。
  説明責任を高めるため、同法の適用を監視する
  専門家を入れた独立機関の設置も必要だ。
 ◎差別とヘイトスピ-チ   
  近年、日本は少数派に対する
  憎悪表現の急増に直面している。
  日本は差別と戦うための包括的な法整備を行っていない。
  ヘイトスピ-チに対する最初の解答は、
  差別行為を禁止する法律の制定である。
 ◎選挙の規制 (省略) ◎デジタルの権利 (省略)
 ◎市民デモを通じた表現の自由   
  日本には力強く、尊敬すべき
  市民デモの文化がある。
  国会前で数万人が抗議することも知られている。
  それにもかかわらず、参加者の中には、
  必要のない規制への懸念を持つ人たちがいる。
  沖縄での市民の抗議活動について、
  過剰な力の行使や多数の逮捕があると聞いている。
  特に心配しているのは、
  抗議活動を撮影するジャ-ナリストへの力の行使だ。
 
そして正式な報告書です。
 
●  デイビッド・ケイの正式報告書
正式な報告書と勧告は2017年の
国連人権委員会に提出されました。
報告書はかなり長い文章です。
まず項目のみを書いて最初の方は削除して、
最後の「結論及び勧告(パラ61~64)」のみを詳しく書きます。
さらにこの勧告に対して
日本政府がどのような対処や履行したのかの結果報告が、
デイビッド・ケイ氏から
2019年6月24日に国連人権理事会に出されました。
2017年の勧告と2019年の結果報告をあわせて書きます。
解りやすくする為に、2017年の勧告のポイントは黄色に、
2019年の結果報告を赤字にしました。
ほとんど国連からの勧告を履行していないことが分かります。
残念ながらこれが私たちが支持している政府の姿勢です。
 
要約  省略
Ⅰ.序論(パラ1~5)  省略
Ⅱ.国際法基準及びミッションの主な目的(パラ6~8)  省略
Ⅲ.日本における表現の自由の基盤への課題(パラ9~12)  省略
Ⅳ.日本における言論及び表現の自由の権利の状況:主要所見(パラ13~14)  省略
A.メディアの独立(パラ15~36)  省略
B.表現への介入/歴史の発言(パラ37~42)  省略
C.情報へのアクセス(パラ43~52)  省略
D.差別とヘイトスピ-チ(パラ53~55)  省略
E.選挙運動における規制(パラ56~57)  省略
F.デモ(パラ58~60)  省略
Ⅴ.結論及び勧告(パラ61~64)   
 61.特別報告者は、あらゆる活動を通して、
  民主的な社会における言論及び表現の自由の
  重要性を繰り返し述べる。  
  言論及び表現の自由の権利の保護は
  人権の促進・保護の中心をなすものであることを強調する。  
  人権に対する日本の歴史的なコミットメントは、  
  地域的にも全世界的にも指導者としての
  重要な立場にある国と位置づけた。  
  繰り返しになるが、
  情報や思想の自由な交換を保護・促進
  するというそのコミットメントは、  
  過去数十年にわたり日本が経験した
  経済的及び科学的進展にとり確実に不可欠であった。  
  日本国憲法は、おそらく、
  核となる市民的及び政治的権利、
  特に表現の自由の権利のために設けられた  
  確たる保護を付与された歴史プロセスにおける
  重要な要素であり続けている。   
 62.政府による検閲が存在しないということも
  重要なことではあるが、  
  こうした非常に堅固は基盤があるにもかかわらず、
  特別報告者は著しく心配な兆候を確認した。  
  メディア、歴史的な出来事を議論する限られた場所、  
  国家安全保障上の理由に基づく
  情報アクセスの制限の増加に対して
  政府高官が行使し得る直接的な圧力が、  
  日本の認主主義基盤をむしばまないよう
  注意する必要がある。   
 63.特別報告者は、日本がインタ-ネットの
  自由の分野において重要なモデルを示していることを強調する。  
  日本は、インタ-ネット普及率が高いレベルにあり、
  政府は内容制限に携わっていない。  
  デジタルの自由への干渉度が
  非常に低いレベルにあることは、
  政府の表現の自由へのコミットメントを説明している。   
 64.しかしながら、特別報告者は、
  日本の民主主義基盤を更に強化するため、
  建設的関与の精神で、以下の措置を勧告する。
A.メディアの独立
 65.特別報告者は、現在の放送メディアを
  所管する法的枠組を見直すこと、  
  特に、政府に対し、
  政府による干渉の法的基盤を除去し、
  報道の独立性を強化する観点から、  
  放送法第4条の見直し及び撤廃を勧告する。  
  この措置と並んで、特別報告者は、政府に対し、  
  放送メディアに関する
  独立規制機関の枠組みを
  構築することを強く要請する。
  →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出    
 66.特別報告者は更に当局及びメディア団体に対し、
  報道関係者もしくは
  他の調査報道業務を行う専門家に対して、  
  いかなる脅しも威嚇も拒否することを
  公然と表明することを求める   
 67.公共及び民間の放送メディア団体、活字メディア団体は、  
  特に、議論を呼ぶ話題を調査しコメントする
  ジャ-ナリストへの全面的な
  支援及び保護を保障しつつ、  
  編集活動に対するいかなる
  直接的及び間接的な圧力に対して、
  常に警戒すべきである。  
  沖縄における軍事活動に対する
  抗議や原子力事業と災害の影響、  
  第二次世界大戦における
  日本の役割といった非常に機微な問題を取材する  
  ジャ-ナリストに対する支援に
  特に注意が支払われるべきである。   
 68.報道の自由及び独立はジャ-ナリスト間の
  更なる結束なくしては守られ得ない。  
  特別報告者は、ジャ-ナリスト団体に、
  現行の記者クラブ制度が及ぼす影響を議論し、  
  少なくとも広範囲のジャ-ナリストが
  参加できるように会員を拡大する責任を
  負う立場にあることを求める。  
  特別報告者はまた、ジャ-ナリストに対し、  
  独立した報道の促進がいかにマルチメディアで
  働く専門家のつながりを促進できるかを
  評価することを求める。
B.歴史的教育及び報道への介入
 69.特別報告者は、政府に対し、
  教材における歴史的出来事の解釈への
  介入は慎むべきこと、  
  また、第二次世界大戦中に
  日本が関与した出来事に特に留意しつつ、  
  これらの深刻な犯罪について
  国民に知らせる努力を支援することを求める。  
  政府は学校のカリキュラム作成において
  完全なる透明性を確保し、  
  教科用図書検定調査審議会自体を
  政府の影響からいかに守るかを再検討することにより、  
  公教育の独立性に、有意義に貢献すべきである。 
 →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出   
 70.「慰安婦」問題を含む過去の重大な
  人権侵害に係る公開情報を検証していくため、    
  政府は、「真実・正義・賠償・再発防止保証の促進
  (真実の権利)」特別報告者の訪問招請を検討すべきである。       
 →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出
C.選挙運動とデモ   
 71.特別報告者は、選挙運動に対して
  不当な制限を課す公職選挙法の規定を廃止することにより、  
  公職選挙法を国際人権法に準拠させるための改正を求める。    
   →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出   
 72.特別報告者、訪日時及び訪日後に受け取った情報に基づき、  
  沖縄における公の抗議活動に向けられた
  圧力を特に懸念している。  
  特別報告者は、公権力、特に法執行機関が
  緊迫した状況下に置かれていることは理解するが、  
  公権力、特に法執行機関は、
  メディアによる抗議活動に関する報道も含め、  
  公の抗議活動や反対意見の表明が可能となるよう、
  あらゆる努力を行うべきである。  
  抗議活動を行う者に不均衡な処罰を
  科すことを含め、悪者扱いすることは、  
  全ての国民が公共政策への反対意見を表明する
  基本的自由を徐々に損なうことになる。       
   →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出
D.特定機密保護法   
 73.特別報告者は、たとえその情報の開示が
  日本の国家安全保障を脅かさないとしても、  
  その情報が秘密と指定される可能性を
  避けるための継続的な取り組みと警戒を促す。   
 74.特別報告者は、政府関係者から、
  政府は同法25条の厳しい罰則をジャ-ナリストに
  適用する意図はないとしていることを
  聞いたことには満足しつつも、  
  政府に対し、法自体がジャ-ナリストの業務に
  萎縮効果を与えないことを保障すべく
  同法を改正することを促す。  
  また、特別報告者は、政府関係者から、
  ジャ-ナリストが情報を開示したとしても、
  その情報が公的な関心事項であり、  
  ジャ-ナリズムの誠実かつ合法的な
  追求の中で得られたものである限り、  
  罰せられないことを聞いたことには満足しつつも、  
  自由権規約委員会の提案を踏まえて、
  政府に対し、ジャ-ナリスト及び政府関係者を含め、  
  いかなる個人も、日本の国家安全保障に
  危害を与えない国民の関心事項である情報を
  開示しても処罰されないことを
  保障する例外規定を同法に含めることを奨励する。   
   →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出   
 75.指定された秘密にアクセスする権限を
  有する者による情報の開示を罰する条項は、  
  最低限、情報の開示が公益に叶うものであり、  
  またその開示が日本の国家安全保障を
  危険にさらさないという誠実な信念に基づいて  
  情報を漏えいした個人に対する
  例外規定を含むべきである。   
   →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出   
 76.また、情報への権利は、法律を超越して、
  不正の報道や公益に叶う情報の報道を促進する
  社会的及び組織的な規範の基盤を必要としている。   
  こうした規範の強化のためには、
  様々な機関のあらゆるレベルに対する訓練と
  政治及び企業のリーダ-や国際公務員、
  裁判官等による支持表明、
  報復がなされた場合の説明責任の追及が必要である。   
 77.衆議院は、政府に対し、
  説明責任の向上を求めており、
  特別報告者は政府に対し、  
  専門家を配置した独立の監視委員会の設立によって、
  この目標を達成することを奨励する。  
   →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出
E.差別とヘイトスピ-チ   
 78.特別報告者は、日本に対し、
  広範な適用可能な反差別法を採択することを促す。      
   →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出   
 79.特別報告者は、例えば、
  ヘイトに対抗する教育上及び
  公的なステ-トメントを通して、 
  ヘイトスピ-チ問題に取り組む
  日本政府の努力敬意を表する。
  他方、スピ-チそのものは、  
  自由権規約第20条及び同規約第19条第3項の
  要件を満たさない限り、
  制限されるべきではない。
F.デジタル権   
 80. 省略   
 81.法律は、国家による通信の監視は、
  最も例外的な場合において、  
  また、独立した司法機関による監視の下でのみ
  行わなければならない旨を規定しなければならない。  
  特に、法はいかなる電子的又はデジタルな監視も、
  少数集団を対象とし監視する等の  
  差別のために適用されてはならないと
  補償する基礎的な原則を遵守すべきである。
   →未履行 2019年6月24日に国連人権理事会 提出
 
繰り返しますが、私たちはこのような報道環境の中にいて、
情報を鵜呑みにして判断しているのだと理解するべきです。