抗生物質と耐性菌

2010年12月に書きました

 

目には見えませんが私達の体は

表面も体内も色々な微生物に覆われています。

大腸の中だけでも100種類以上100兆個と言われます。

つまり微生物と一緒に暮らしているようなものです。

身体には免疫をはじめ

色々な防御機構がありますが、

微生物同士の微妙なバランスも

身体を守ってくれます。

ですから私達の周辺に存在する微生物は、

健康で普通の免疫力を持っていれば、

病原性を持たず(発病しないで)殆どは

共生関係を保ち、むしろ私達を守っています。

また食品製造に役にも立っています(味噌・酒・漬物・・・)

 

たまには非常に強い病原性がある

微生物に感染することがありますし、

免疫が低下すると弱みに付け込んで

共生していたはずの微生物が暴れだすことがあります。

免疫力では間に合わないその時に

役に立つのが抗菌剤や抗生物質です。

抗菌剤は1910年に梅毒の治療薬「サルバルサン」

として開発されたのが最初です。

毒薬のようなものです。

 

さて抗生物質ですが、1929年にフレミングが

偶然に「青カビがブドウ球菌の発育を阻止する」

ことを発見したことが始まりです。

その青カビがペニシリウム属だったので

ペニシリンと名付け1940年から使われ始められました。

その後「カビ」の研究が進み多くの抗生物質が作られ、

人類は感染症に勝ったかと思われました。

しかしその後、細菌が抗生物質に耐性を持つようになり、

さらに耐性菌に効く抗生物質を作ると

また新たな耐性が出来るといった

イタチごっこが始まり現在も続いています。

細菌もカビも生物です。

恐らく太古から生存を賭けた

最近とカビの戦いがあったのではないでしょうか。

 

「MRSA」「MRAB」「多剤耐性」「院内感染」

と言った言葉がニュ-スに出ます。

「MR」とはメチシリン(ペニシリン改良型)に耐性と言う意味で、

SAは黄色ブドウ球菌、ABはアシネトバクタ-です。

最近は細菌同士が耐性情報を

交換することも分かってきました。

多くの情報を持った細菌は多剤耐性菌と呼ばれ

殆どの抗生物質に耐性を持っています。

 

入院している人は病気や高齢なので

免疫力が低下しています。

そのため健康な人なら何でもないのにすぐに発病します。

その時に抗生物質の助けを借りようとするのですが

効かないのです。

それが院内感染です。

殆どの耐性菌は私達の身体に住み着いている

常在菌で、普段は悪さをしません。

むしろ身体を守っています。

免疫力が落ちたときや

清潔志向」「抗菌志向」で過剰に消毒すると

微生物バランスが狂って常在菌が暴れだすのです。

清潔も過ぎると身体の防御機構を弱める事になるのです。

 

抗生物質の乱用で細菌が耐性化するのも問題です。

殆どの感染には抗生物質は必要ないのに

安易に使いすぎるからです。

病気を治すのは本人の免疫力ですから、

どうしても免疫で間に合わないときや、

強力な病原性があるときにのみ

抗生物質は使用するべきです。

細菌は耐性があろうとなかろうと

病原性は同じですから、

健康な人は耐性菌にかかっても心配する必要はありません。

免疫が低下した人の場合、

抗生物質の手を借りようと思っても効かないために

重症化するのです。

 

尚、ウイルスには抗生物質は効果ありません。