次はピロリ菌除去に関することです。
 
「胃酸を止める薬」
 胃の働きは外部から(口から)摂取した食事を
 強烈に殺菌することと、消化分解する事です。
 その為に胃酸として塩酸と消化液が出ます。
 そうすると食事だけでなく
 自分自身の胃壁に対しても
 攻撃をする可能性があります。
 自分の胃の壁を守るために、
 胃は壁を絶えず新しくし、
 粘液を分泌して保護しています。
 そのバランスが崩れて胃酸が勝つと、
 胃潰瘍など胃のトラブルの原因となります。
 胃潰瘍の治療に昔は手術や胃壁の保護剤を使用しましたが、
 最近では胃酸の分泌を減らしたり
 止める事で胃壁の回復を待つことが
 出来るようになりました。
 またピロリ菌(ヘリコバクタ-ピロリ)が発見されて、
 その治療の一環として胃液を止めることが進んでいます。
 ピロリ菌は胃や十二指腸の潰瘍やガンの
 原因になるとされているので、
 退治(除菌)しようとするのです。
 胃酸は塩酸と同じで強烈な殺菌効果があり、
 菌や微生物は死にます。
 ところがピロリ菌はアルカリ成分を分泌し
 自分を守る幕を作るため胃液の中でも生きられるのです。
 ピロリ菌を退治する為に抗生物質を使用しますが、
 効果を上げるために、
 一旦胃酸分泌を止める必要があります。
 その為のPPIという薬が発達しました。
☆胃液が出る仕組み
 胃酸が出る仕組みの模式図です。
 
 食事を摂取して胃の中に溜まり、
 出口の幽門部に来ると自立神経の働きで、
 殺菌・消化を開始します。
 まず自律神経の働きでアセチルコリン、
 ヒスタミン2型、ガストリン等が分泌されます。
 上の図の右側に矢印で示されています。
 胃の壁ではアセチルコリンに対して「ムスカリン受容体」、
 ヒスタミンに対して「ヒスタミンH2受容体」、
 ガストリンに対して「ガストリン受容体」等の
 受容体が信号を受け取り、
 胃酸分泌信号を出します。
 胃酸分泌の量が緑の矢印の太さで違います。
 そして最終的にプロトンポンプという
 胃酸ポンプが作動して胃酸が出るのです。
 そのため胃潰瘍の治療やピロリ菌を
 退治するためには、
 胃酸を出ないようにする必要があるので、
 各受容体やプロトンポンプそのものを
 作動させないようにします。
 まず受容体を働かせない薬です。
 ブロッカ-とか拮抗剤といわれます。
 その仕組みです。
 ◎ヒスタミンH2受容体
  ヒスタミンはアレルギ-に関係する1型と
  胃酸分泌の2型があります。
  胃壁にあるヒスタミン2型の受容体を
  ブロックして胃酸を出ないようにする薬です。
  H2ブロッカ-と言います。
  薬ではガスタ-10などが有名です。
 ◎ガストリン受容体
  食事が胃に入ったときに胃の幽門部から
  ガストリンが分泌されます。
  これはホルモンです。
  胃壁の受容体でキャッチすると胃酸が出ます。
  胃酸を止めるには抗ガストリン剤を使います。
  薬は色々あります。
 ◎ムスカリン受容体
  食事の信号が入ると交感神経で
  神経伝達物質アセチルコリンが出てます。
  胃壁ではそのアセチルコリンを
  ムスカリン受容体でキャッチして
  胃酸を分泌します。
  それを押さえるには
  抗コリン剤(M1ブロッカ-)を使います。
  薬はアトロピン系薬剤です。
これ等の薬を別々に服用しても
完全には胃酸を止めることは困難です。
そこでこれらの薬の信号を受け取って
最終的に働く胃酸ポンプを
直接止める薬が開発されました。
PPIと言います。
胃酸を分泌するポンプをプロトンポンプと言い、
プロトン(水素イオン)の働きで胃酸を出しています。
そのポンプを直接止める薬が
PPI(プロトンポンプ阻害剤Proton pump inhibitor)です。
良く使われる薬ではバリエットやタケプロンが有名です。
◎問題点
 ☆受容体やプロトンポンプが存在する場所と影響
  これらの働きの中で、ヒスタミンH2受容体、
  ムスカリン受容体、プロトンポンプなどは
  胃酸を分泌する胃壁にだけ
  存在するわけではありません。
  全身に存在するので、
  胃酸を止める作用が目的であっても
  全身に影響を及ぼします。
 ☆ヒスタミンH2受容体
  平滑筋、血球幹細胞、中枢神経系、
  心筋・・・などにも存在する
 ☆ムスカリン受容体
  腸管の平滑筋運動促進、唾液分泌、
  心機能抑制、排尿促進・・・・
  等に関するところにも存在します。
 ☆プロトンポンプ
  プロトンポンプにも数種類の型があり、
  全身に存在します。
 ☆胃酸を止めることの弊害
  色々な薬を使って胃酸の分泌を押さえることは
  治療上必要な場合もあります。
  しかし胃酸は強烈な殺菌作用があるので、
  私たちは安心して食事が出来るのです。
  胃酸ではピロリ菌以外の微生物などの
  細菌は死滅します。
  強烈な殺菌作用がある胃酸の分泌を
  薬で止めると当然ながら殺菌が出来なくなります。
  そうすると感染症を起こす危険性が増えます。
  抵抗力(免疫力)が低下した高齢者などには
  注意したほうが良いと思います。
  長期にわたって服用することにも
  注意したほうが良いかもしれません    
 ☆ピロリ菌(ヘリコバクタ-ピロリ)の除去と問題点   
  ピロリ菌の検査が楽に出来るようになったため
  殺菌(除菌)は流行っています。
  将来のガンや潰瘍を防ぐことが目的です。
  殺菌をする為に抗生物質が使われますが、
  胃酸のある酸性の環境では効力が落ちるので、
  まず胃酸の分泌をとめます。
  そのために強力なPPI(プロトンポンプ阻害剤)を使います。
  その上で2種類の抗生物質を1週間服用します。
  それが成功しなければさらに2回目の除菌を行います。
  問題は抗生物質で除菌できるのは
  ピロリ菌だけではないということです。
  全身の細菌が死んでしまいます。
  多くの菌は身体に悪いわけではなく、
  身体を守るために存在しているのです。
  しかし除菌すると善玉の菌まで死んでしまうのです。
  そして菌同士のバランスがくずれて、
  感染性下痢など新規の感染を起しやすくなります。
 ☆さらに問題は、抗生物質を使っても
  死なない菌が残った場合です。
  抵抗力が落ち、守る菌もなく、
  抗生物質耐性を持った
  耐性菌だけが繁殖してしまいます。
  耐性菌による発病があっても原因が耐性菌ですから、
  抗生物質が効かずに治療が困難になります。
  ピロリ菌除去の結果、ガンや潰瘍は若干減るのですが、
  総死亡数がかえって増える
  傾向があるという研究もあります。
 ☆PPIで各臓器の水素イオン濃度が調整できなくなる。
  プロトンポンプには色々な種類があり、
  しかも胃にあるだけではありません。
  最近では肺の細胞にもあり、
  免疫を制御していることが分かりました。
  その為PPIで肺のプロトンポンポンプを止めると、
  肺炎になりやすいことが指摘されています。
  高齢者は特に要注意でしょう。
  さらに骨折や尿路感染の危険性が
  増えることも指摘されています。
  健康なピロリ菌保菌者でガンや
  潰瘍のない人は無理に除菌を
  しないほうが良いかもしれません。